浮いた浮いたで暮らしたや

吾輩の視界が、ひょいと昇る。
見慣れたラグの柄も、高くから見下ろす。

ヨッピーはよく吾輩を抱きかかえる。
そして立ち上がり、吾輩を腕のなかに抱いたままうちをぶらつく。

溜まった気分は地面に置き去りにして、ふわわと浮くのだ。

赤ちゃんのようだと言うマリンをも見下ろして、ぬくい胸のそばで、視界だけの探検をする。

小箱のなかの小箱

朝、皆んなが小さな輪になっていた。
見て見てというので覗きにゆくと、ヨッピーが小箱を開封しはじめる。

三人はずいぶん楽しそうにしているが、小箱から出てきたのはまた小さな箱であった。

これはヨッピーのあたらしいスマートフォンで、吾輩をたくさん撮りたいのだと話す。

ニコニコしている三人を見回し、吾輩はまだしばらく、輪のなかで横たわっておくことにした。

眺めの良い席

この家には、住人の数以上のイスが並んでいる。
それぞれに好みがあるらしいが、吾輩にもお気に入りがあるのだ。

どのイスにも背もたれがあるが、吾輩のお気に入りには、腰部分が空洞のものである。
これは台所のすぐ近くに位置していて、寝そべると台所がよく覗ける、特等席なのだ。
ときどき、眺めているうちに眠ってしまう。

台所は、なぜかいいにおいの生まれる、魔法的な場所である。
吾輩の食事も、皆んなの食事も、ここから運ばれてくる。

5時間のなかの20分

昨夜、ヨッピーが席を立ち、ラグの上で「20分だけ」と言って仮眠をはじめた。
彼女はとうとつに動くのだ。

吾輩は空いた席に飛びのって、仕事をするマリンのとなりで毛づくろいをする。

布きれが視界にちらついた。
肘かけから垂れたそれをつついて、噛み、引っ張り、仕留めかけていたはずが、ふと気づくと外が明るくなっていて、どうやら手をかけたまま眠ってしまったらしい。

向こうをみると、ヨッピーはまだぐっすりと眠っていたので、吾輩ももういちど眠ることにした。

観察は円状に

ヨッピーとマリンは、一晩以上うちを空けると、ほとんど必ず「おみやげ」を買ってくる。
吾輩からねだったことはないが、どうしても買いたくなるのだという。

ふた晩空け、そして昨夜帰ってきたふたりは、めずらしく、早々に眠りについた。
そして朝になって起きてくると、笑みを顔いっぱいにためこみながら、「おみやげ」を取り出したのである。

それは、これまででいちばん大きな「おみやげ」であった。
赤ら顔の、不気味な目をしたやつで、どんと横たわっている。

それをじっと観察している吾輩を、ヨッピーとマリンがじっと見つめている。
彼女らに向かって顔を上げると、あわててそっぽを向くのだ。

ぴんぽん、ぴんぽん

ぴんぽん、という音で目がさめた。

パジャマのまま吾輩のもとへやってくることを日課にしていたマリンが、今日は玄関に寄ってからこちらにきた。
片手に見慣れぬものをたずさえ、にやついた声で吾輩を呼ぶ。

マリンは、それがなんであるかを丁寧に説明していたが、吾輩は、その物体から発せられるにおいのほうが、よほど気にかかった。
くんと嗅いだり、歯を立てたりしてみると、マリンがこれは豚毛だよと言った。

ブラシなるそれが、吾輩の背中をなでると、存外気持ちがいい。
満足げなマリンのために、身をまかせておく。

お喋りな人間に付き合ってやること

吾輩はものをしゃべることができる。
吾輩がお喋りなのではなく、人間のものわかりが悪いのである。

今日は、マリンが朝早くに出かけていった。
明日には帰ってくるからと、昨日も聞いたことを話し、名残惜しそうに家を出ていった。

昼寝からさめてもマリンはいなかったが、今日はシンカイがいる。
彼はめずらしく食事を用意したり、トイレをきれいにしたりした。

ヨッピーとマリンはよく話をしているが、ヨッピーとシンカイもずいぶん話をするのだ。
よくしゃべる彼らは、吾輩に向かって「よくしゃべるね」と言うので、反論をこめて鳴いてみる。

ふたり二度寝を

マリンは起き抜けにオーディオの近くへきて、吾輩を呼びながら裏をのぞく。
吾輩はアンプの上を通って、マリンの手のそばへいくことが日課になった。

今朝も、そのまま腕のなかへずり落ちていくと、ずいぶん柔らかな心地である。
寝そべったマリンのもとでくつろいでいると、いつのまにか喉を鳴らすのも忘れて眠ってしまった。

明日はマリンが出かけていくらしい。
明後日には帰ると、誰よりもさみしがりながら、何度も話している。

ワールド・ニャップpart2

吾輩は夜毎、ボールを追いかけている。
ヨッピーとマリンはいつも仕事というものに向かっており、吾輩はそのまわりを駆けるのである。

少し前までは、ヨッピーやマリンの近くにボールが転がると、投げ返されるのを遠くで待った。

しかし彼女らという人間が大したことのない存在であることがわかり、今ではごくそばまで近づいてボールを追いかける。
めんどうな場所や彼女らの足もとに転がったものだけを、吾輩は待ち構えるのである。

昨夜は、ボールを投げ返そうとしたヨッピーがふいに立ち上がり、蹴り返してきた。
先日彼女らが観ていた球追い運動会に、少し似ている。

そして吾輩はそれに応えてやり、ヨッピーはうれしそうにまたボールを蹴る。

上手な眠りかた

吾輩は人間のそばでの眠りかたを知った。
恐怖と警戒を排泄すれば、それでよいのだ。

今日もアンプの上でマリンに撫でられていると、そちらへ身を寄せていくうちに頭から落下した。
そして気がつくと毛布にくるまれ、マリンの腕のなかにいる。

やがてヨッピーも寄ってきて、吾輩のひたいを撫でていた。

布団を前足でもむと爪が引っかかるのを見て、あしたは爪を切ってみようと、ふたりが喋っている。